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最高裁判所第一小法廷 平成6年(オ)1349号 判決

当事者の表示

別紙当事者目録記載のとおり

右当事者間の福岡高等裁判所平成四年(ネ)第三三九号不当利得返還、債務不存在確認、損害賠償請求事件について、同裁判所が平成六年三月三一日言い渡した判決に対し、上告人から一部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人井上正治の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程北所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井嶋一友 裁判官 小野幹雄 裁判官 高橋久子 裁判官 遠藤光男 裁判官 藤井正雄)

当事者目録

北九州市小倉北区南町六番二〇号

上告人 神前一郎

右訴訟代理人弁護士 井上正治

熊本県八代市本町一丁目一三番四二号

被上告人 有限会社日進セメント工業所

右代表者取締役 園田芳治

同 葦北郡芦北町花岡西一六五七-七

被上告人 工木ツタエ

同 下益城郡小川町大字南小川二五九番地

被上告人 吉冨製品販売合資会社

右代表者無限責任社員 吉冨元浩

右三名訴訟代理人弁護士 村山光信

鹿児島県薩摩郡宮之城町湯田一〇〇〇番地

被上告人 新改義己

同 樋脇町市比野二三二一番地の五

被上告人 大田カツヱ

同 樋脇町市比野二三二一番地の五

被上告人 大田和範

同 樋脇町市比野六六〇七番地

被上告人 休德美穂子

同 樋脇町市比野二三二一番地の五

被上告人 大田俊朗

右五名訴訟代理人弁護士 山下勝彦

熊本県水俣市丸島町一丁目四番七号

被上告人 合資会社松田セメント瓦工場

右代表者無限責任社員 松田光男

右訴訟代理人弁護士 村山光信

長崎県島原市片町五五二番地一

被上告人 合資会社野澤商店

右代表者無限責任社員 野澤倭雄

同 片町五六二番地

被上告人 野澤倭雄

同 高島二丁目七二〇三番地

被上告人 有限会社石井産業

右代表者代表取締役 石井義治

同 高島二丁目七二〇三番地

被上告人 石井出水

右四名訴訟代理人弁護士 坂口孝治

山本紀夫

山本智子

高﨑玄太郎

熊本市貢町五七番地

被上告人 有限会社緒方進化瓦工業所

右代表者代表取締役 緒方泰英

熊本県鹿本郡植木町平原三七四番地

被上告人 有限会社田原坂瓦工場

右代表者清算人 大津淸人

同 天草郡姫戸町二間戸三五七六-五七

被上告人 松本昭光

同 菊池郡合志町大字栄二三八〇-三

被上告人 青木政憲

熊本市黒髪三丁目六番二一号

被上告人 株式会社建吉組

右代表者代表取締役 笹原弘

同 石原町三六一番地三

被上告人 有限会社菊芳工務店

右代表者代表取締役 佐藤菊芳

同 薬園町六番一八号

被上告人 柏木文博

同 津浦町三〇番五四号

被上告人 南文人

熊本県玉名郡玉東町木葉七六七-一

被上告人 横田義雄

右九名訴訟代理人弁護士 村山光信

熊本市龍田町弓削一〇七〇-一

被上告人 中尾政春

熊本県玉名郡岱明町野口九〇八番地の一

被上告人 有限会社久保組

右代表者代表取締役 久保敏勝

同 岱明町下野口二〇九五

被上告人 北原勝芳

同 横島町栗ノ尾

被上告人 島村徹

同 天水町尾田三三九-二

被上告人 下野美義

同 玉東町木葉七〇九-一一

被上告人 橋野保男

熊本市小山町尾ノ上六一〇

被上告人 林貞信

熊本県玉名郡玉東町上白木一五九

被上告人 山野吉孝

熊本県天草郡姫戸町大字姫浦四九二五

被上告人 碇九氏

同 松島町阿村七八〇-一二

被上告人 植野正

同 龍ケ岳町大通三六八六-二

被上告人 木下森義

同 松島町阿村一六七〇

被上告人 坂口秀雄

同 姫戸町大字姫浦一一九〇-四

被上告人 坂本末二

同 松島町大字合津三一六一

被上告人 深田米夫

同 松島町大字今泉一四五一

被上告人 源光義

大分県大分郡挾間町大字挾間七七一番地の一

被上告人 株式会社植木セメント工業所

右代表者代表取締役 植木一成

大分市大字北二五五番地の一

被上告人 大分屋根材協同組合

右代表者代表清算人 清水定喜

同 西鶴崎一丁目八番七号

被上告人 鶴崎セメント工業株式会社

右代表者代表取締役 佐藤豊喜

大分県豊後高田市大字水崎七七九番地

被上告人 金剛スレート株式会社

右代表者代表取締役 水之江米子

同 宇佐市大字和気一〇〇六番地

被上告人 株式会社三栄建材社

右代表者代表取締役 河野初弘

大分市大字下戸次九七番地

被上告人 株式会社大菱産業

右代表者代表取締役 首藤慶次郎

大分県大分郡挾間町大字挾間七五九番地

被上告人 坂本セメント工業有限会社

右代表者代表取締役 坂本政行

大分市大字小野鶴三九八番地

被上告人 久松来

大分県東国東郡国東町大字浜三六六四番地

被上告人 福永武一

同 日田市三本松一丁目四番三六号

被上告人 有限会社財津建材店

右代表者代表取締役 財津邦寛

右二三名訴訟代理人弁護士

村山光信

鹿児島県大口市里三〇九七番地壱

被上告人 合名会社後飯塚セメント瓦工場

右代表者代表社員 後飯塚ミチ

同 姶良郡姶良町平松五〇〇九番地

被上告人 有限会社丸高セメント瓦工場

右代表者取締役 平山正人

右両名訴訟代理人弁護士 田川章次

臼井俊紀

熊本県阿蘇郡長陽村大字立野字法立一八八七番地

被上告人 阿蘇りんどう瓦協業組合

右代表者代表理事 佐藤勝英

右訴訟代理人弁護士 村山光信

鹿児島県薩摩郡鶴田町柏原三一〇〇番地

被上告人 有限会社瀬戸口瓦工場

右代表者代表取締役 瀬戸口一郎

右訴訟代理人弁護士 山下勝彦

(平成六年(オ)第一三四九号 上告人 神前一郎)

上告代理人井上正治の上告理由

上告理由書(一)記載の上告理由

一 本件の原審福岡高等裁判所は、その第一審である福岡地方裁判所小倉支部が平成四年四月二一日言渡した判決に対し、平成五年三月に口頭弁論を終結したが、本職は翌月の四月二二日に本件訴訟を受任し、同年六月二八日次のように主張する準備書面を福岡高等裁判所に提出し、弁論の再開を申立てたのである。しかるに右裁判所は、弁論を再開することなく一年余りの期日をおいて、本年三月三一日判決を言い渡し、控訴審の福岡高等裁判所においても第一審の福岡地方裁判所小倉支部の判決とそれほど差異のない判決があった。しかし、本職は、これに対し、弁論を再開することのなかった審理不尽により重大な事実誤認があったものとみるのである。

先ず本理由書の始めにこれを次のごとく指摘しておくこととする。

「現に控訴人の軒瓦および左右の袖瓦はいずれもその『形状』に意匠の要部が認められたればこそ、いずれも意匠登録されているのであり、もし、右の二つの判決がいうように『無模様』の点に本件意匠の要部があるとするならば、控訴人が軒瓦で意匠登録(登録番号329962号)が認められた後に左右の袖瓦(同329963号、同329964号)に意匠登録が認められるはずはない。これら三つの瓦はいずれも無模様だからである。もし左右の袖瓦は軒瓦の類似意匠として登録されたということになると、右の軒瓦の意匠登録番号『329962の類似1』あるいは『類似2』として『日本国特許庁意匠広報』に登録されていなくてはならないはずである。」

二 先ず、本件上告理由書として、福岡高等裁判所は当然右のごとく結論しなくてはならないにもかかわらず、なぜ右の結論を無視したかまた無視せざるをえなかったかを順次検討してみることとする。

本件上告事件の福岡地方裁判所小倉支部における第一審判決は平成四年四月二一日に言渡されたが、その中代表的なものとして「昭和五八年(ワ)第一〇〇号」事件から引用してみることとする。その判決の九一丁には次のごとくに判示されている。

「まず、A意匠の基礎的形状は、請求原因2(一)(2)(A意匠の基礎的形状)のとおりのものであるが、右基礎的形状自体は、前記(二)の平S形厚形スレートの身かわらの意匠(但し、表面の凹凸の形状を除く)の基礎的形状と類似している。即ち、A意匠の基礎的形状は、JISに指定されるほど一般に知られているものであるから、右形状につき新規性は全くない。

次に、軒かわらの付加的形状として掲げた垂れ及び小巴についてみるに、軒かわらに垂れ及び小巴を付けることが古くから行われ普及していることは、前記(四)で認定したとおりであり、また、垂れの形状については、前記(四)掲記の各図のかわらと同じであるから、垂れ及び小巴は付けること自体と、垂れの形状に新規性は全くない。

そこで、進んで、A意匠の小巴と、その出願前公知または周知のものとして前記(四)で認定した小巴の形状を比較する。A意匠を表したものであることにつき当事者間に争いがない別紙(一)によれば、A意匠の小巴の上部は、桟部の形をそのまま延長した形状(富士形)になっていることが認められるところ、前記(四)によれば、軒かわらの小巴の上部の形状が、桟部の形状をそのまま延長したものであることは、A意匠の出願前から各形状のかわらにおいで一般的に行われており、周知といえるから、まず、平S形軒かわらにこのような形状の小巴を取り付けること自体は、極めてありふれた構成であると考えられる。そして、A意匠の小巴の形状である「上部が富士形で下部が矩形よりなる変形六角形」は、特に、前記(四)でみた軒かわらのうち、「理想瓦」(昭和二〇年代から現代に至るまで、その呼び名で、九州一円に広く知られたものである。)の小巴の将棋の駒形の周知の形状(前記小巴比較図〈3〉)に類似しており、また、右理想瓦の周知の形状に基づいて、瓦の製造業者であれば、上部の先端を理想瓦の尖ったものから、平らなもの(A意匠)に、形状でいえば上部を三角形から台形に変化させるだけで、容易に創作することができるものであるにすぎない。従って、A意匠の小巴は、これをもって公知ないし周知の意匠にない新規性や創作性があるとはいえず、故に看者の注意を引く部分と認めることができない。…………(かくて)…………A意匠の要部は、かわらの表面裏面に釘穴以外の模様も立体模様もない点にあるというべきである。」(九二丁)と認定した。また、「3……昭和四六年三月三一日以降、原告らが製造販売していた軒かわら、左右の袖かわらは、本件意匠権に係る各かわらと同形(原告製品と同形の小巴ないし覆板付)のものであるが、いずれも、策一事件の被告ら製品と同様、かわらの表面及び裏面に流水案内突条等の顕著な模様(立体模様)を有していることが認められる。右事実によると、第一事件と同様の理由により、本件登録意匠と第七事件の原告らの製品の意匠とは、類似関係や利用関係がなく、第七事件の原告らが被告の意匠権を侵害しているということはできない。従って、被告が原告らに対し、本件意匠権を侵害したとして、損害賠償、不当利得返還或は通常実施契約の締結及びその実施料の支払いを請求したこと、また、右損害賠償請求権ないし不当利得返還請求権を被保全権利として、原告  ら所有の財産につき仮差押の申請・執行をなしたことは、いずれも違法であったものといわなければならない。

4 しかし、意匠権の侵害がないにもかかわらず、右侵害を理由に、損害賠償ないし不当利得返還請求権を行使し、或いはこれを被保全権利として仮差押命令を得てこれを執行したことが、不法行為となり、その行為者が、これによって受けた損害を賠償する責任を負担するのは、この点につき故意または過失が存したことが必要である。そこで、本件における被告の故意または過失の有無について検討する。」(一三三丁ないし一三三丁)

として、被告すなわち上告人には故意または過失があったものと第一審裁判所は認定したのである。

「右事実によると、神前鉄工所(被告)は、本件意匠権登録前の時点において、神前式金型を各かわら業者に販売する際に、近い将来、右金型に基づく意匠権が登録されることを前提にして、これを販売しているのであるから、神前鉄工所(被告)は、本件意匠が登録された後においても、右金型の購入者がこれを用いて平S形かわらを製造販売することを、少なくとも予め許諾したものと解すべきである。したがって、仮に原告ら製品の意匠が本件意匠権の範囲に入ると仮定しても(そうでないことは前示のとおりであるが)、右金型の譲渡により、その通常実施権を許諾したものということができる。」(一三四丁)

三 しかるに、他の事件において、東京高等裁判所は、右の判旨とはまったく異なり、本件意匠の要部は釘穴以外の模様も立体模様もない点にあるのではなくて形状にあるとして、平成三年一二月二六日「平成三年(行ケ)第七六号」事件において次のように判決した。

「確かに、軒先瓦である以上、その前端に、屋根の軒先を覆うべき前垂れ部を形成することが必要である。しかしながら、たとえ基本となる平瓦の意匠の具体的態様が決まっていても、これに対応する軒先瓦の前垂れ部の具体的態様は多種多様に創案され得ることは当然であって、前垂れ部の具体的態様が一義的に限定される理由は全く考えられない(原告が援用する引用例一の第九頁第二七行ないし第二九行の記載は、瓦の寸法に関する記載であり、この記載によって前垂れ部の具体的態様が一義的に限定されるものではない。)。そして、同じ意匠の平瓦に対応する軒先瓦であっても、前垂れ部の具体的態様のいかんによって別異の美感を生じ得ることは、成立に争いない甲第九号証(福岡地方裁判所小倉支部昭和五七年ワ第四六七号事件の判決)の別紙九(「小巴比較図)と題する図面)によっても、容易に窺い知られるところである。

のみならず、軒先瓦の前垂れ部の態様は、葺き上った屋根瓦全体のうちでも最も目立ち、屋根全体の美感を左右するものの一つと考えられるから、前垂れ部の態様は軒先瓦の意匠における要部をなすというべきであり、したがって、軒先瓦の前垂れ部における具体的態様の差異は、たとえそれが微妙なものであっても、取引者ないし需要者の注意を強く引くと理解するのが相当である。そうすると、S形平瓦の前端に前垂れ部を形成した形状は本件意匠とほとんど同一であるという原告の主張は、合理的根拠に欠けるものである。

なお、原告は、表面及び裏面の模様の有無は本件意匠とS形軒先瓦の意匠が類似すると判断することの妨げとならない、と主張する。しかしながら、表面の模様は葺き上ったときの屋根全体の美感を左右する意味において、また、裏面の模様は葺き上げ作業の利便あるいは雨水の水切り等を左右する意味において、いずれも瓦の意匠における要部をなし、取引者ないし需要者の注意を強く引くと考えられるから、原告らの上記主張も失当である。

以上のとおりであるから、本件意匠は、引用例一記載の意匠に類似する意匠といえないし、引用例一記載の意匠に基づいて当業者が容易に創作をすることができたともいえない。したがって、本件意匠は引用例一記載の意匠との関連において意匠法第三条第一項第三号又は第二項に規定されている意匠に該当するという原告の登録無効事由〈1〉は、到底採用することができない。」(一六丁ないし一八丁)。

なお、同日東京高等裁判所は、平成三年(行ケ)第七四号事件においても、右と同旨の判決をなしている。

「確かに、左袖瓦である以上、その左端に、屋根の左端を覆うべき垂壁(袖部)を形成することが必要である。しかしながら、たとえ基本となる平瓦の意匠の具体的態様が決まっていても、これに対応する左袖瓦の垂壁の具体的態様は多種多様に創案され得ることは当然であって、垂壁の具体的態様が一義的に限定される理由は全く考えられない(原告らが援用する引用例一の第九頁第二七行ないし第二九行の記載は、瓦の寸法に関する記載であり、この記載によって垂壁の具体的態様が一義的に限定されるものではない。)。そして、同じ意匠の平瓦に対応する左袖瓦であっても、垂壁の具体的態様のいかんによって別異の美感を生じ得ることは、成立に争いない甲第一〇号証(福岡地方裁判所小倉支部昭和五七年(ワ)第四六七号事件の判決)の別紙一〇(「覆板比較図(左袖瓦)」と題する図面)によっても、容易に窺い知られるところである。しかるに、袖瓦の垂壁の態様は、葺き上った屋根瓦全体のうちでも最も目立ち、屋根全体の美感を左右するものの一つと考えられるから、垂壁の態様は袖瓦の意匠における要部をなすというべきであり、したがって、袖瓦の垂壁における具体的態様の差異は、たとえそれが微妙なものであっても、取引者ないし需要者の注意を強く引くと理解するのが相当である。そうすると、S形平瓦の左端に垂壁を形成した形状は本件意匠とほとんど同一といえるほど近似するという原告らの主張は、合理的根拠に欠けるものである。

なお、原告らは、表面及び裏面の模様の有無は本件意匠とS形左袖瓦の意匠が類似すると判断することの妨げとならない、と主張する。しかしながら、表面の模様は葺き上ったときの屋根全体の美感を左右する意味において、また、裏面の模様は葺き上げ作業の利便あるいは雨水の水切り等を左右する意味において、いずれも瓦の意匠における要部をなし、取引者ないし需要者の注意を強く引くと考えられるから、原告らの上記主張も失当である。

以上のとおりであるから、本件意匠は、引用例一記載の意匠に基づいて当業者が容易に創作をすることができたとはいえない。したがって、本件意匠は引用例一記載の意匠との関連において意匠法第三条第二項に規定されている意匠に該当するという原告らの登録無効事由〈1〉は、到底採用することができない。」と判決した(一五丁ないし一七丁)。

この判決の前に、すでに株式会社三龍商会他を被告として本件上告人が原告であった福岡地方裁判所小倉支部の第一審判決は、昭和六二年九月一八日本件意匠権の要部について次のごとく判決した。

「表面中央部が平坦な平形や平S形かわらは、中央部が湾曲した和形や洋形のかわらに比べると雨水が飛散しやすく水はけが悪いので、雨滴の飛散を防止して流水効果を高めるとともに、かわらの強度を増すため表面に隆起した縦筋状の模様が、裏面に横長の凹部が設けられている。

平S形かわらには、既にA意匠の出願前より別紙(八)「意匠登録一覧表」記載のとおり、多数の登録意匠が存するが、いずれも意匠の構成として、表面中央部に流水案内作用をもつ模様が存し、それら各意匠は、模様の差異がそれぞれ異なった美感を与えるものとして登録されたものであって、無模様の登録意匠はA意匠以外に存しない。(原告は、昭和三八年三月六日安達喜作出願にかかる、昭和四六年一一月四日登録、登録番号第三四〇九九九号の意匠(別紙(八)の「意匠登録一覧表のNO.16)は、本件登録意匠の出願前に登録された無模様の平S形かわらである旨主張するが、右意匠は表面上部に横筋状の、裏面に縦三本、横二本の各模様があるものであるから、原告の主張は理由がない。)。

そして、昭和三五年度日本工業規格厚型スレートJISA5402の付図1に記載された平形かわらの標準図及び付図2に記載されたS形(現平S形)かわらの標準図には、いずれも右同様の模様が設けられている。

(四) イ号意匠は、後記のとおり構成であり、A意匠と小巴をもつ点で類似し、前記(三)と同様の模様をもつ点で異なるが、別紙(四)の意匠公報記載のとおり、A意匠登録後である昭和五一年四月一九日出願され、昭和五三年七月二一日意匠登録された。

以上認定した事実によると、軒かわらに小巴を取り付けることは、A意匠の出願前より各形状のかわらにおいて一般的に行われており、公知といえるから、平S形軒かわらに小巴を取り付けることは極めてありふれた構成と考えられ、これをもってA意匠に新規性や創造性があるとはいえない。

これに対し、平S形かわらは、表面裏面に模様を付けたものが広く知られているところ、A意匠は表面裏面とも釘穴以外の模様も立体模様もない点で公知意匠には見られない斬新な特徴が存するものといえるから、被告主張のようにこの点をA意匠の要部とみるべきである。」(一五丁ないし一六丁)となしている。

四 現に、また、本日提出した甲第七七号証の一ないし三にみられる登録番号787770号ないし同787772号の三枚の瓦の各意匠は、表面の模様としては本件と同じく無模様であって、右の判決は「かわらの通常の使用状態においては、その表面が最も看者の注意を引く部分」と判示し、その表面はいずれも無模様でありながら、互いに類似関係にない意匠として、右の三者がそれぞれ独立に登録されているのである。それではその形状が違うということ以外に考えようがない。本件のばあいもそれと同じである。

すなわち、控訴人の軒瓦および左右の袖瓦の三枚はいずれも連続した登録番号をもって意匠登録されているのであり、もし、原判決がいうように「無模様」の点に本件意匠の要部があるとするならば、控訴人においてまず軒瓦に意匠登録(登録番号329962号)が認められた後に、それとは独立に、引続き左右の袖瓦二枚にそれぞれ別の意匠登録(同329963号、同329964号)が認められることはありえず、右の袖瓦二枚の意匠登録の出願は却下されていたか、あるいは軒かわらの意匠権登録番号「329662の類似1」あるいは「類似2」として登録されていたはずである。そうではなくそれぞれ独立の登録番号をもって、「意匠登録原簿」に登録されそして「日本国特許庁意匠公報」に発表されている。それではその形状に本件意匠権があるというほかありえない。

大分県厚型スレート協同組合は原告として東京高等裁判所に本件上告人の意匠権は認められないとして審決取消請求を提訴したが(その他多くの瓦業者も同じ提訴をなしていた)、いずれも平成三年一二月二六日に東京高等裁判所の判決があって原告の主張は認められず、すなわち、本件意匠権はその形状に認められたものとして判決され、同判決は平成四年九月二二日最高裁判所においても認められた。

しかるに、同種事件の福岡高等裁判所の判決は平成三年九月一一日であったが、同判決では瓦の形状には本件意匠権は認められずに瓦の表面が無模様一色であるところにその意匠権は存するとされて、最高裁判所においてはその意匠権の要部は形状にあるとした右判決と同じ日の平成四年九月二二日にその意匠の要部は右の判決のごとく形状にではなく無模様の点にあるとして承認された。

右の二つの判決はいずれも最高裁判所第三小法廷でなされているが、しかし、その間に最高裁判所のあるべき機能からみて矛盾はないというべきである。蓋し、上告理由としては少なくとも民訴法第三九四条の理由が必要であってそれなくしては上告できないからである。ただ、右判決に審理不尽があってその審理不尽が判決に影響を及ぼすばあいにのみ原判決は破棄されることになるのである。

五 最高裁判所は、かつて「いったん終結した弁論を再開すると否とは当該裁判所の専権事項に属し、当事者は権利として裁判所に対して弁論の再開を請求することができないことは当裁判所の判例とするところである。」と判示している(最判昭和五六年九月二四日)。そして判例としては、最判昭和二三年四月一七日民集二巻四号一〇四頁、同昭和二三年一一月二五日民集二巻一二号四二二頁、同昭和三八年八月三〇日裁判集民事六七号三六一頁、同昭和四五年五月二一日裁判集民事九九号一八七頁などが挙げられている。

ところが、右判決は、更に引き続き、「しかしながら、裁判所の右裁量権も絶対無制限のものではなく、弁論を再開して当事者に更に攻撃防禦の方法を提出する機会を与えることが明らかに民事訴訟における手続的正義の要求するところであると認められるような特段の事由がある場合には、裁判所は弁論を再開すべきであり、これをしないでそのまま判決するのは違法であることを免れないというべきである。」と判示している。

本件の第一審は、無模様の点に本件意匠の要部があるとするのであるが、そしてまた原審の福岡高等裁判所もこれを容認したものであったが、もしそうであるならば、すでに軒かわらで意匠登録(登録番号329962号)が認められた後に左右の袖かわらが同329963号、同329964号として連続した独立の番号で意匠登録が認められるはずはないのである。

かくて、上告人は、原審において、更に裁判所の審理判断を求める必要があるとして弁論の再開を申立てたが、これは判決の結果に影響を及ぼすべき重要な攻撃防禦方法といわざるをえない。しかるに原審の福岡高等裁判所は弁論を再開することなく、無模様に本件意匠権の要部があると認定してしまった。

これは、福岡高等裁判所がかつて平成三年九月一一日同種の事件(昭和六二年(ネ)第六一九号)において、この度と同じようにかわらの無模様に本件意匠権の要部があると判決したことがあるので、いま更この判決を改めることができずに、弁論を再開するかどうかは当該裁判所の専権事項に属するとする最高裁判所の判例の原則論の上にたって判決し、福岡高等裁判所は、これには重大な例外のあることを無視してしまい、かくて原判決は民事訴訟における手続的正義に反することになったものといわざるをえない。

六 本件上告人は、現在、福岡地方裁判所小倉支部において、原告として、本件第七事件の被上告人を被告として係属する不当利得返還請求事件(平成四年(ワ)第五五九号事件)において、本件上告理由と同じく、「軒かわらに意匠登録が認められた後に左右の袖かわらに連続して独立の番号で意匠登録が認められるはずはない」と主張して、現在審理中であるので、これを附記しておくものである。

以上

上告理由書(二)記載の上告理由

第一 かわらの公知論争

一 本件の第一審である福岡地方裁判所小倉支部は、

「第二事件の昭和六三年七月七日実施の検証の結果及び証人宮田恵美子の証言によれば、確かに、右苅田町において、表面裏面とも無模様の平S形かわらを使用した建物が現存し、そのかわらは、昭和三二年頃葺かれたものであることが認められる。」

と判決したが(九三丁一一行目ないし一五行目)、原審である福岡高等裁判所は、「三 当裁判所の判断」としてその4に、

「また、甲第六六ないし第六九号証によれば、広島県、佐賀県においても、昭和二〇年代、同三〇年代に建築された建物が現存し、それらに、表面裏面とも無模様の平S形かわらが使用されていることが認められる。」

と追加した。

すなわち、第一審の宮田恵美子の証言によれば、苅田町において無模様の平S形かわらを使用した建物が現存することが認められるが、しかし、その数が少ないのでこれは珍しいとして、すなわち「公知、周知ではない」と認定したのである。

一体意匠の公知とはいかなる情態をいうのであるか。社団法人発明協会の発行した工業所有権逐条解説には、

「実用新案法におけるように公然実施をされたものが規定されていないのは意匠は外観で判断するため、公然実施をすれば公知になることにもとづく。

特許法、実用新案法では、交通、通信技術の発展等を考慮し、特に刊行物記載に関しては新規性の判断を国内に限定しないという態度をとった。しかし、意匠は大部分の場合、刊行物に記載されるよりも意匠を施した物品が市場に出回る方が早いのが実情であり…」とある。

この解釈が正しいとすれば、本件の場合は、公知と認定するのが正当ではないか。本件意匠の出願は昭和四〇年であり前記相手方の認めた証拠は、その二〇年近く前から無模様の平S形かわらが市場に出回って多数の建物の屋根に使用されているのであり、その建物は、国道の沿線にも沢山あって何十年間無数の人の目にふれているのである。

またこのかわらの製造工場は福岡県にも広島県にも多数あるのであって、この一工場で製造販売した建物の屋根は何十年にわたり何百軒何千軒以上あることになる。しかるに、いかなる理由から、これを珍しいとして公知と認定しないのであるか。

もしこれが正しく認定されて公知とされているならば、この一事をもってして、本件意匠の要部は無模様にあるのではなく形状にあるという他なく、原判決は、逆転していたはずである。

二 しかるに、この形状については、右の福岡地方裁判所小倉支部の判決はこれを公知と認定したのである。

本件の出願前に製造販売されていたとして、同判決は、「A意匠の小巴については、前記のとおり周知の形状と類似し、かつ容易に創作し得る程度の部分であって」と判示して、第〈5〉図にある亀甲形の小巴は徳島県の松下郁二の本件意匠出願の一年位前の昭和三九年頃から、このかわらを製造販売していたとする証明書を提出したのみで、その検証は右の松下郁二が拒絶したため実施されずに、右の証明書をもって周知と認定された。

ところが、東京高等裁判所は同じくかわらの意匠権について平成三年一二月二六日次のとおり判決して、福岡地方裁判所小倉支部の判決とくい違う結論を出した。

「同じ意匠の平瓦に対応する軒先瓦であっても、前垂れ部の具体的態様のいかんによって別異の美感を生じ得ることは、成立に争いない甲第九号証(福岡地方裁判所小倉支部昭和五七年(ワ)第四六七号事件の判決)の別紙9(「小巴比較図」と題する図面)によっても、容易に窺い知られるところである。

のみならず、軒先瓦の前垂れ部の態様は、葺き上った屋根瓦全体のうちでも最も目立ち、屋根全体の美感を左右するものの一つと考えられるから、前垂れ部の態様は軒先瓦の意匠における要部をなすというべきであり、したがって、軒先瓦の前垂れ部における具体的態様の差異は、たとえそれが微妙なものであっても、取引者ないし需要者の注意を強く引くと理解するのが相当である。そうすると、S形平瓦の前端に前垂れ部を形成した形状は本件意匠とほとんど同一であるという原告の主張は、合理的根拠に欠けるものである。」

かくて、軒かわらについては小巴を附加したその全体の形状に、また両袖かわらについては継目冠蓋を附加したその全体の形状に、本件意匠権があるといわなくてはならない。

第二 上告人は被上告人らにかわらの金型を販売してはいない。それ故、原判決第七事件につき、原判決挙示の証拠からは認定事実を認定できる証拠はまったくないというべきであって、原判決には、証拠によらず認定した違法があるといわなくてはならない(昭四三・三・一最高二小・民集二二・三・四九一)。

一 被上告人の第一審および原審の主張は、上告人の経営する株式会社神前鉄工所が製作販売した金型を直接間接に購入して「表面に四本程度の筋状の模様が入っている」かわらを製造販売したというものである。

それ故、この点につき検討する。

原判決は、

「3 ところで、第七事件の甲第二一号証の一ないし四の各一ないし三、第二四号証の一ないし四、第二五ないし第二八号証の各一ないし九、第二九号証の一ないし七、第三〇号証の一ないし九及び原告後飯塚セメント代表者後飯塚ミチ尋問の結果(第二回)及び弁論の全趣旨によれば、昭和四六年三月三一日以降、原告らが製造販売していた軒かわら、左右の袖かわらは、本件意匠権に係る各かわらと同形(原告製品と同形の小巴ないし覆板付)のものではあるが、いずれも、第一事件の被告ら製品と同様、かわらの表面及び裏面に流水案内突条等の顕著な模様(立体模様)を有していることが認められる。右事実によると、第一事件と同様の理由により、本件登録意匠と第七事件の原告ら製品の意匠とは、類似関係や利用関係がなく、第七事件の原告らが被告の意匠権を侵害しているということはできない。」(一三二丁裏五行目ないし一三三丁表五行目)

と判示している。

しかし、右にいう甲第二四号証の一ないし四は、被上告人らが株式会社神前鉄工所より購入したとする金型の写真であり、右金型には縦に三本の筋状の線が入っている(甲第二四号証の一参照)。右金型によって製造したかわらは、被上告人後飯塚セメントにつき甲第二六号証の一ないし九、同丸高セメントにつき同第二七号証の一ないし九に明らかなように、「かわらの表面に三本の筋状の模様が入った」かわらである。

第一審判決一二二丁表に、「(1) 原告今田ノリ(名称は「熊鷹産業」)は、昭和四六年一月二二日、神前鉄工所(販売担当者は満田義雄常務取締役または従業員の宮下)から、神前式金型をプレス機械、受鉄板等とともに代金二一七万円で買い受けた。」と判示されている。

右今田ノリが神前鉄工所より購入した金型によって製造販売したかわらは甲第二一号証の一の〈1〉ないし〈3〉に明らかなとおり、「かわらの表面には四本の筋状の模様が入った」かわらであって、被上告人らの製造販売したかわらとは別異のものである。

すなわち、上告人は「かわらの表面に三本の筋状の模様が入った」かわらを製造する金型を製作販売したことはない。

原判決もまた、第一審判決を支持して、その一三丁において、

「13 その他、当審で取り調べた証拠によっても、引用に係る原判決の認定判断を覆すに足りない。」と判示する。

右は明らかな誤りである。

二 第一審判決は、また、

「前記2の(一)の事実によれば、第七事件の原告らは、いずれも右神前鉄工所から神前式金型(製造設備一式を含む)を購入し、右金型を用いてかわらを製造していたこと、神前鉄工所と買主との間の右金型売買の経緯をみるに、神前鉄工所の従業員が、買主に対し、現在、S形かわらの意匠登録申請中であることを告げた上で、「将来、意匠登録の許可も下りる、今、これを買った方が得をする」(原告丸高セメント関係)……などといって売買を勧誘したことが認められる。」(一三四丁表二行目ないし裏一行目)

とか、

「右事実によると、神前鉄工所(被告)は、本件意匠権登録前の時点において、神前式金型を各かわら業者に販売する際に、近い将来、右金型に基づく意匠権が登録されることを前提にして、これを販売しているのであるから、神前鉄工所(被告)は、本件意匠が登録された後においても、右金型の購入者がこれを用いて平S形かわらを製造販売することを、少なくとも予め許諾したものと解すべきである。したがって、仮に原告ら製品の意匠が本件意匠権の範囲に入ると仮定しても(そうでないことは前示のとおりであるが)、右金型の譲渡により、その通常実施権を許諾したものということができる。」(一三四丁裏二行目ないし一一行目)

と判示する。

更に論を進めて、

「右金型を譲渡した以上、その直接の買主のみならず、これから更に、右金型を、製造設備一式、したがってその実施事業とともに、譲渡を受けた第三者もまた、神前鉄工所(被告)に対し、右金型を使用してかわらを製造販売する権利を主張し得るものと解すべきである」(一三五丁表一行目ないし五行目)

といい、

「被告が、右金型をその実施事業とともに譲り受けた原告らに対してまで、前記損害賠償等の請求ないし仮差押をしたことには、過失があったといわざるを得ない。」(一三五丁表一一行目ないし一三五丁裏一行目)と判示するのである。

しかし、第一審裁判所は誤って甲第二四号証の一ないし四の金型が上告人あるいは神前鉄工所製作の金型であると認定したものであり、これにより判決に影響を及ぼすべき重大な事実誤認があったといわざるをえない。

三 更に、原告後飯塚セメント代表者後飯塚ミチ尋問の結果(第二回)をみても、金型入手時において上告人との接触はない。

「(2) 原告後飯塚セメントは、昭和四七年一〇月頃、新改瓦工場から、中古の神前式金型を買い受けた。右新改瓦工場は、宮崎県都城市の鶴田某から右金型を買い受けた。なお、本件全証拠によっても、更に、右鶴田が右金型を入手した経路は不明である。」(一二二丁裏一行目ないし五行目)

とするが、新改瓦工場が鶴田某なる者から購入したとする証明はない。仮に鶴田某が誰であって、いつ誰からどういう方法で、どういう権利を承継したものかの立証がなされない以上、それでは上告人のかわら意匠権の実施権があるとは認定できない。

四 そもそも上告人は、自らの意匠権を形状のみの意匠と解していたのであって、かわらの表面に四本の筋状の模様を付したかわらも同人の意匠権の範囲に属するとの判断をもって、製造用の金型を製作して販売していたものである。

被上告人らは、「神前鉄工所から購入した金型によって製造したかわらは、いずれもそのかわらの表面に四本程度の筋状の模様が入っている。」(八〇丁表四行目ないし六行目)といい、その証拠として甲第二四号証の一ないし四の金型によって製造された甲第二六号証の一ないし同二七号証の九のかわらの写真を提出している。しかし、右写真で示されるかわらの表面には、「三本の筋状の模様が入っている」のであり、かわらの表面に三本の筋状の模様があるものと、四本のものとではいかなる関係に立つかについて、本件に限りなんらの判断をも示されてはいない。これでは理由齟齬及び理由不備の違法がある。

五 右事実の基づくとき、上告人には、第一審判決もいうごとく、「本件意匠権と原告らの製品の意匠との類似関係や利用関係については、第一事件の理由説示のとおり、専門家たる弁理士においても、結論を異にする意見・鑑定が存するところであり、本件訴訟提起以前の段階で、当裁判所と同じ解釈・結論に達することを通常人に期待することは、困難であるといわざるを得ない。」(一三三丁裏六行目ないし一一行目)のであるから、その形状に意匠権があるとみた上告人がその形状を利用するとみた被上告人に対し損害賠償等の請求ないし仮差押をしたことには、過失があったということはできない。

六 かくて、本件は審理不尽により重要な事実の誤認があったといわざるをえない(最高裁昭和三五年六月九日第一小法廷判決-昭和三三年(オ)第二五四号-(民集一四巻七号一三〇頁)。

以上

平成六年六月一四日付け上告理由書補充書記載の上告理由

一 上告人は、平成六年六月六日付上告理由書(二)の第二の一において、被上告人らが、「上告人の経営する株式会社神前鉄工所が製作販売した金型を直接間接に購入して『表面に四本程度の筋状の模様が入っている』かわらを製造販売した」とする主張を引用した。

ところで、五日前の平成六年六月九日、上告人を原告とし本件第七事件の被上告人らを被告らとして福岡地方裁判所小倉支部に係属する不当利得返還請求事件(平成四年(ワ)第五五九号)において、その口頭弁論のなかで、被上告人らは被告らとして乙第六号証の一ないし同第七号証の九を提出した(上告人提出の上告理由書(一)参照)。

この証拠によると、被上告人らが製造したかわらは四本程度の筋状の模様ではなく三本の筋状の模様があるにすぎない。

そこで、原告としてこれを糺したところ、被上告人らの訴訟代理人は、被告として「四本程度の筋状の模様の入っている」かわらを製造販売していると主張したことは誤りであるが、たまたま提出するかわらが被上告人らの手元になかったので他人のかわらを借りて提出しただけのものというのであって、はっきりと四本程度の筋状の模様というのは誤りであると認めた。

二 他方、上告人は、三本の筋状の模様のあるかわらの金型を製作販売したことはなく、これによると、被上告人らの製造したかわらは明らかに上告人の販売した金型を買い受けて製造したものではありえない。

しかるに、原判決は、第一審判決を援用して(以下被告とあるは上告人、原告らとあるのは被上告人らの意である)、

「被告が、右金型をその実施事業とともに譲り受けた原告らに対してまで、前記損害賠償等の請求ないし仮差押をしたことには、過失があったといわざるを得ない」(一三五丁)

として、上告人の金型を被上告人らが譲り受けてかわらを製造した以上通常実施権が認められたことになると認定しているが、三本の筋状の模様のあるかわらの金型を販売したことがない上告人にとっては、この認定は誤りであるというべきである。

三 参考までに本件第七事件の甲号証と、右平成四年(ワ)第五五九号における乙号証(いずれも被上告人ら提出)を対照すると、以下のとおりである。

本件第七事件 甲第二四号証の一 甲第二四号証の二 甲第二四号書の三 甲第二四号証の四 甲第二六号証の一 甲第二六号書の二 甲第二六号書の三 甲第二六号証の四 甲第二六号書の五 甲第二六号書の六 甲第二六号書の七 甲第二六号書の八 甲第二六号書の九 甲第二七号証の一 甲第二七号証の二 甲第二七号証の三 甲第二七号証の四 甲第二七号証の五 甲第二七号証の六 甲第二七号証の七 甲第二七号証の八 甲第二七号証の九

平成四年(ワ)第五五九号 乙第六号証の一 乙第六号証の二 乙第六号証の三 乙第六号証の四一 乙第六号証の五 乙第六号証の六 乙第六号証の七 乙第六号証の八 乙第六号証の九 乙第六号証の一〇 乙第六号証の一一 乙第六号証の一二 乙第六号証の一三 乙第七号証の一 乙第七号証の二 乙第七号護の三 乙第七号証の四 乙第七号証の五 乙第七号証の六 乙第七号証の七 乙第七号証の八 乙第七号証の九

以上

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